「あんたよりもずっと、わたしのほうが雅人と一緒にいるんだから……そんなのどうでもいいし」

 人が目の前を通るからあまり大きな声で言い返せないけれど、精一杯強がってみせる。

 わたしの言葉に彼女は厭味ったらしい笑顔をやめて、不機嫌そうな顔をしてから「あっそ」と冷たく一瞥して踵を返した。振り返った瞬間に、彼女の長い髪の毛が揺れてわたしの顔に微かに当たる。そんなこと気にもしないでスタスタとひとりで歩いて行く後ろ姿に、いつのまにか握っていた拳が震えるのがわかった。

 なんなの、あの態度、あの言い方、あの笑い方。あんなに性格悪いなんて!

 今まで町田さんとこんなふうにふたりで言葉を交わしたことはなかった。好きじゃないと思っていたけれど、わたしから彼女に嫌味なことを言った覚えもないし、あれほど敵意を剥き出しにして接したこともない。

 わたしのことが気に入らないんだろう、ということはわかっていた。彼氏がずっと幼馴染のそばにいるのだから、彼女としていい気分ではないだろうってことくらいは、わたしにだってわかっていた。

 だけど、そんなのお互い様だ。

 嫌いならばそれでもいいと思っていた。別に町田さんに好かれる必要もないし、わたしが好きになる必要もない。

 それでいいじゃない。話しかけなければいい、無視すればいい。雅人に気を使わせない程度に、必要最低限の挨拶だけ交わしていればいい。

 ——なのに。

 なんでわざわざあんなことを面と向かって言ってくるのだろう。しかも突然。

 雅人といるときは天使みたいに笑ってばかりのくせに。やっぱり、あれは猫をかぶっているだけなんだ。雅人はあの女の本性を知らないだけ、本当の彼女はさっきのような、いやな感じなんだ。

「お待たせー、って、どうしたの?」

 トイレから出てきた真知が、わたしの顔を見て戸惑いの表情を見せた。多分誰が見ても分かるくらいわたしは怒りをにじませているだろう。

「……なんでもない」

 吐き出したいけれど、怒りすぎて言葉にするのが億劫に思える。ぐっと奥歯を噛んでそう答えた。