キレイな黒髪をまっすぐに地に向けておろして、白い半袖のシャツの上に、この時期では暑いだろうにカーディガンを羽織っている。誰かが言っていた。美容にすごく気を使っているらしく、焼けることを嫌っているとか。とはいえこの時期に薄手だとはいえカーディガンなんて、見ている方が暑苦しい。

 目があった彼女は大きな瞳を少し細めて、微笑みながらわたしに近づいてきた。いつもなら、ぺこっと会釈して終わるだけなのに。

 わたしも話しかけたりはしないけれど、彼女だって今までそんなことしなかった。だから、多分、わたしたちはお互いにお互いのことをあまりすきじゃないんだろうと思っていた。

 あのに、なんで急に?

「こんにちは」

 町田さんは、わたしの目の前に立って声をかけてくる。怪訝な顔をしながら「どうも」とよくわからない返事をすると、彼女はわたしの気持ちを察したのだろうか、くすりと笑った。睫毛の陰が目元の下に落ちる。わたしの何倍の長さがあるのだろうかと、どうでもいいことを思う。少なくとも1.5倍はありそうだ。

「今日は雅人くんと帰るんでしょ?」
「そうだけど、なに?」

 さっきの会話を見ていたんだろうか。もしくは機嫌のいいわたしの様子からそう予測したのだろうか。

 首を傾げつつも、なんとなくいやな感じがして突慳貪な返事をしてしまうと、町田さんは笑いをこらえきれないかのようにくすっと笑った。

「別に。今日私が友だちと遊ぶ予定が入ってたから、雅人くんにがっかりされちゃってたから。美輝ちゃんが一緒に遊んでくれてよかったなーって思っただけだよ」

 町田さんのピンク色の唇が、弧を描く。目元が下がる。それがただのほほ笑みではなく、わたしを馬鹿にしているのだということは一目瞭然だった。もちろん、口調も、台詞も。

「今日は、私の代わりに、楽しんでね」
「代わりなんかじゃないし……」

 ぐっと奥歯を噛みながら反論するけれど、町田さんはちっとも気にしない様子で目を細めた。

「でも、私と一緒に過ごせてたら、美輝ちゃんは過ごせなかったでしょ?」

 悔しいけれど、そのとおりだろう。

 だからこそ、悔しいのだ。

 ふつふつと怒りがこみ上げてきて、目一杯彼女を睨みつけた。町田さんの余裕のある顔がすごくいやだ。なんでわたしがこんなことを言われなくちゃいけないのだろう。