ぼんやりと通り過ぎていく人を眺める。みんな笑顔だ。明日からの夏休みが楽しみで仕方ない、と顔に書いてある。

「あれ? 美輝。こんなところでなにしてんの」

 ぼーっと人間観察をしていると、遠くから声をかけられて笑顔で振り返った。声だけで誰からか、わたしにはすぐに分かる。視線の先には思った通り、わたしに向かって歩いてくる雅人の姿があった。

「真知を待ってるの。雅人、体育館から出てくるの遅かったね」
「友達としゃべってたら混みだしたからのんびりしてたー」

 わたしより入り口に近いクラスだったから、てっきりもう先に行ってしまったと思っていた。雅人は近くにいた友達らしき男の子に手を振って別れを告げてから隣に並ぶ。

「成績どうだった? おばさんに怒られなくてすみそう?」
「どーかなあ……」

 雅人は今回もほぼ5で埋め尽くされているんだろうなあと想像してから、自分の平均どまんなかの成績表を思い出した。怒られはしないだろうけれど、代わり映えのない、褒めることも怒るとこもない数字の羅列にため息はつくだろう。

 わたしの返事だけでだいたい察したのだろう、雅人が優しく目を細めて笑う。目を細めると少しだけ目尻にシワができて、それが余計に優しく見える。

 やっぱり雅人の笑顔、好きだなあ。モヤモヤした気持ちがスーってなくなっていく。

「そういえば、帰り誰かと約束してる? さっき賢に聞いたら今日はクラブないらしいし、一緒に帰らないか?」
「だ、大丈夫!」

 一緒に帰れる! そう思うと食い付き気味で返事をしてしまった。少し驚いた顔をした雅人がその後でくすりと微笑む。

「んじゃ、終わったら靴箱で待ってて」
「わかった。ねえ、寄り道もしようよ、せっかくだし」
「いいね、映画でも観ようか」

 雅人と一緒に帰れるなんて、久々だ。頬が緩んでしまうのが自分でわかる。

 手を振りながら「じゃああとで」と言って去っていく雅人に、笑顔で手を振り返しながら、早く放課後になればいいのに、と思った。いっそ、このまま教室に戻らず帰りたいくらいだ。気を抜いたら思わず鼻歌をうたってしまいそう。

 まだトイレは混んでいるのだろう。出てこない真知を待ちながらさっきまでとは違った気分で生徒たちの表情を眺めた。

 その中で、ふと、こちらを見る視線に気付く。その瞬間に、明るい晴れやかな気分が一気に風に吹き飛ばされたような気持ちになってしまう。