学校に着くと、階段で賢と別れて同じクラスの真知と教室に向かった。

 教室の中は、いつも以上に喧騒に包まれている。明日から休みということで、みんなテンションが上がっているのだろう。

「おはよー美輝、真知!」
「おはようー!」

 友だちが大きく手を振ってわたしと真知に呼びかけてくる。それに返事をして会話に混ざりながら自分の席に向かった。椅子に腰を下ろすと、カバンを置いて駆け寄ってきた真知が前の席に座って「ほんとあっつー」と下敷きで風をおこしながら、気だるそうに言った。

 座っていると、さっきまでの予熱で汗が吹き出してきて、ハンカチを顔にあてながらこくこくと頷く。

 教室にクーラーなんてものはなく、外とは違った蒸し暑さが充満している。耐えきれなくてそばにある窓をあけると、生ぬるい風がわたしの頬を撫でた。

「ふたりともへばりすぎじゃない?」

 近くにいたクラスメイトの聖子がケラケラと笑う。

「今みんなで夏休みどこ行こうかーって話してるんだけど、真知と美輝いつ空いてる?」
「あ、いいね! わたしいつでも行くよ」
「夏休み、あたし絶対外に出かけない! 暑いー!」
「部活あるくせに、真知なに言ってんの」

 真知が出かけないと、そう言いたくなる気持ちも分かる。この暑さじゃなにもしたくなくなる。自分の家のクーラーがガンガンに効いた部屋に閉じこもりたくなる。

 けれど、なんの予定もないわたしは、できるだけ出かけたい。引きこもっていたら雅人と町田さんのことを考えてしまって、どんどん性格が悪くなってしまいそうだ。

「そういえば、美輝はいつでもって、出かける予定とかないの?」
「残念ながらないんだよなあー」
「賢くんとデートで忙しいのかと思った」
「へ?」

 聖子が首を傾げて聞いてきたので、てっきり雅人とのことを言われるかと思ったら賢の名前が出てきて間抜けな声を発してしまった。

「なんで賢の名前が出てくるの」
「なんでって、前から噂になってるじゃん」
「え? 賢とわたしが?」

 初耳だ。
 自分の顔を指差しながら、理解が出来ずに真知の方を見ると、呆れたように肩をすくめられた。この様子では真知も知っていたらしい。