残された屋上で、フェンスにもたれかかりながら空を仰いでいると、隣に賢がやってくる気配がした。賢の目にはきっと、わたしがひとりで叫んでいただけにしか見えなかったはずだ。頭がおかしくなったんじゃないかと思われているだろう。

 でも、いいか。

「これで、いいんだよね」

 ひとりごちると、賢が「なにがあったのかわかんねえんだけど」と珍しく弱々しい声で話した。

「よかったんじゃないか?」

 気休めでも、そう言ってもらえたことに安堵の気持ちが広がった。



 どうして、こんな状況にならなくちゃ気づけないのだろう。

 わたしがもっと早くに、町田さんの気持ちを認めることができていれば。自分の気持に向き合っていれば。こんなにも雅人を悲しませる前に、行動に起こして町田さんを助けることが出来たかもしれない。もっと早くに雅人を笑顔にできたかもしれない。

 付き合っている時から、ふたりを祝福できていたら、ふたりの日々はもっと、楽しかったかもしれないのに。

 お父さんのことだって、なくなる前に、もっと一緒にいればよかった。最近帰りが遅い理由を、ちゃんと聞けばよかった。お母さんだってあんなふうに泣くことはなかったかもしれない。

「子供だったんだなあ、わたしって。後悔しかないよ」
「まあ、実際まだ子供だしな。それを今更言ったって過去が変わるわけじゃないし。美輝も、変えたいわけじゃないだろ」

 過去を変える、なんて出来るわけないけれど、もしも、を考える。

 これまで、苦しかったり、辛かったりもした。けれど、それでもなくなってほしいわけじゃない。お母さんとふたりの生活で、わたしはたくさんのものを得た。家のことは一通り出来るようになったし、バリバリに働くお母さんはかっこよくて大好きだ。

 昔よりもずっと、強くならなくちゃいけない、しっかりしなくちゃいけないと思うようになった。