町田さんが本気で雅人のことが大好きだったら、ふたりは絶対別れないだろうと思ったから。わたしが知っていればよかった雅人の大好きなところを、町田さんも気付いているだなんて悔しかった。

 わたしと同じだからこそ、嫌いだった。



「だって……生きるの、は、怖い」

 町田さんは大粒の涙をこぼし、顔をぐちゃぐちゃにして崩れ落ちるように座り込んだ。

「私、障害が、残るんだって……」

 そういえば、そんなことを雅人が言っていた。それがどれほどのものなのかはわたしにはわからない。

「もしかしたら、もう、動けないかも。歩けないかも……もしかしたら話せないかもしれない。記憶も、なくなっているかもしれない」

 嗚咽を漏らしながら、町田さんが喋る。

 その声は、今までの町田さんからは想像もできないほど、弱々しかった。

 ずっと強がっているような気はしていたけれど、本当はわたしの想像も及ばないほどの恐怖を抱いていたのかもしれない。ずっと笑っていたけど、ずっと憎まれ口をきいていたけど、不安でいっぱいだったのかもしれない。

「雅人くんに、迷惑かけたくない! 家族に、迷惑かけて生きるのは、怖い!」

 わたしだったら……どうするんだろう。

 泣いている町田さんを見ていると、わたしまで胸が苦しくなって、涙が溢れる。掛ける言葉が見当たらなくて、とりあえず彼女と視線を合わせるようにわたしもしゃがみこんだ。

「そんなことになるなら、目が覚めても付き合ってなんていられない。ううん、目覚めたくなんかない」

 ——『どうせ、もし目が覚めたって別れるし』

 あの言葉に込められた町田さんの気持ちが、今わかった。

 でも、本当は別れるのが嫌だから、それならいっそこのまま目覚めたくないと言う気持ちも、痛いほど伝わってくる。

 涙が零れないように、息を大きく吸い込んで、瞼を閉じた。