いた。
 やっぱりここにいた。

 彼女を見つけたことに安堵したものの、こんなところに隠れていることに苛立ちも浮かぶ。

「さ、さっさと出てきてよ!」
「なんなのよもう」

 怒りをにじませて彼女を見上げると、町田さんは気だるそうに体を起こし、ひょいっとわたしの立つコンクリートの上に降りてきた。

 重さを感じない、軽いジャンプだった。

 なんの音も響かせない、まるで天使が舞い降りてきたみたいに、きれいな着地。

「なにしにきたのよ。私の事大嫌いのくせに」
「早く戻ってよ、自分の体に。なんでこんなところで遊んでるのよ。みんな心配してるじゃない……! 今日一度目を覚ましたんでしょう? なんでまたこんなことになってるの!?」

 ドアを指差しながら訴えるけれど、町田さんは面倒くさそうに突っ立ったまま。大きな双眼でわたしを捉えたまま、微動だにしない。

 なにをしているのかと、イライラする。

 今の自分の状況がわかっていないのだろうか。

「……死ぬかも、しれないんだよ?」

 そんなのわかってる、と言いたげに唇が弧を描いた。

「起きたときのことは覚えてるんだけど、起きたときはこの二日間のこと、私忘れてたんだよね」
「だから、なんなの」

 別に覚えておくべきものなんてなにもない。ただ、わたしとけんかしただけだ。

 怪訝な顔を見せると、町田さんはゆっくりとわたしに近づいてきた。真夏の風が彼女の髪の毛をふわりと揺らして過ぎ去っていく。

 呼吸はやっと整い、体が少し楽になった。腕で汗を拭いながら、彼女を見つめる。

 町田さんはわたしの横を通り過ぎて、フェンスに近づいていく。あとを追いかけるようにわたしもついていき、彼女の隣に並んだ。彼女の横顔はとてもきれいだった。だからこそ、怖かった。

 このまま夜空に溶けてしまうんじゃないかと、そんな気持ちにさせる。

「死んだら、星になるんだってね」

 彼女の小さな声は、じめっとしたこの空気の中を虚しく漂う。