「だったら雅人にもそう言えばいいのに」
「言えるわけないじゃんそんなこと。かっこ悪いし、子どもみたいだし、困らせるし」
「かっこ悪くて子どもみたいで困ったやつなんだから、仕方ないだろ」
「……うるさいなあ、もう! ああ言えばこういう!」
減らず口ばかりの賢の肩をばしばしと叩くと、賢はケラケラと笑って「やめろ馬鹿」とわたしのお団子を軽く引っ張った。
あまり愛想のよくない賢が口を開けて笑うと、わたしもつられて笑ってしまう。くよくよウジウジしていた気持ちが、すうっと風に飛ばされていくような気がする。意地悪ばかり言うのが、わたしを元気づけようとしていることを知っているからかもしれない。賢なりに、落ち込み気味のわたしを、慰めてくれているんだろう。
「はいはい、ケンカしないの」
わたしと賢の間に、真知が仲裁に入る。
「輝もせっかくの夏休みだよ! あたしが一緒に遊んであげるから」
「真知ぃー」
真知を抱きしめながら、明日からの夏休み、わたしはどんなふうに過ごすんだろう、とまた考えてしまった。
以前は、頻繁に雅人と、そしてたまに賢も一緒に過ごしていた。お互い部活のない日に出かけたり、夕方から雅人の家でごはんを食べたり映画を観たり。高校生になれば行動範囲も広がるだろう、なにをしようかとわくわくしていたはずなのに、今は憂鬱で仕方がない。
だって雅人はきっと町田さんとたくさんの時間を過ごす。そこに、わたしが割り込む隙はほとんどないだろう。もうすぐやってくるわたしの誕生日だけは、きっと一緒に過ごしてくれるだろうけれど。
こんなことなら、雅人と賢の入っているサッカー部のマネージャーとして入部すればよかった。もちろん、入部したところでサッカーのルールもろくに知らないわたしが役立てるはずもないのだけれど。だからこそ、ふたりに誘われても断り続けたのだ。
真知もテニス部だし、他の友達と毎日遊ぶわけにもいかない。わたしも帰宅部を選ばずなにか部活に入っていればよかったけれど、今更だ。
ああ、ものすごく暇な夏休みになりそうだ。お盆休みにお母さんとおばあちゃんの家に行くくらいしか予定がない。いやだなあ。
早く、別れちゃえばいいのに。
そしたら、わたしはまた、雅人の一番近い存在でいられる。
そんな本音を心の中で呟いてから、真っ青な空を仰いだ。蝉の声がうるさくて、太陽の日差しが痛いほど熱い。
「……性格悪いなぁ、わたし」
小さく吐き出したそれは、青空に吸い込まれたのか、真知にも賢にも届くことはなかった。