中学3年の夏。
夏休みに入ったばかりの、濃い青色をした、晴れた空の日だ。
兄貴の友達だった順平くんに誘われて、高校生の陸上の大会を見に行った。
インターハイってやつ。正直あんまり知らないけど、全国の人たちが集まるすごい大会だって聞いた。
順平くんが先生をやっている学校の人がその大会に出るらしくて。あんまりにも外に出ないおれを見かねて、兄貴が無理やりに連れてったんだ。
真夏日、っていうか、猛暑日。
ニュースでこの夏一番の暑さになるでしょうってお天気おねえさんが言っちゃうほどのバカみたいに空気がふっとうしてた日。
そこら中でセミが鳴いてて、アスファルトの上なんて景色がゆらゆらしててまぼろしみたいで。
元々夏が嫌いなのに、さらに大嫌いになるかと思うような、そんな日。
競技場のトラックで人が走ったり飛んだり投げたり、なんかよくわかんないことをしてるのを、おれはできるだけ日陰に入って、保冷剤入りのタオルを首に巻いて、なるべく動かないようにしながらぼうっと見ていた。
正直、めんどくさいって思ってた。陸上になんて興味がないし、暑いし、つまんないし。
だってこんなの見たって何がおもしろいんだろう。おれはスポーツ全般あんまり好きじゃないし。友達とやるバスケもサッカーも、あんなにもつまらなかった。
気が知れないよ。こんなに暑い中、余計に暑くなるようなことやって。おまけにトラックの上を走るだけなんてバスケやサッカーよりよっぽどつまんないじゃない。
だるいな。早く帰りたい。帰って、寝て、誘われたら遊びに行って。
それでいいんだ。そうしたいよ。
だってこんなところいたって、何の意味も、ないんだから。
そう、思ってた。
でも。
『On your marks──Set──』
──目を、奪われたんだ。
ほんの一瞬。
視線の先のトラックの上。100メートルの直線を、誰より速く駆けるその人に。