「ここで、ひとりで?」
「うん、静かで好きなんだ、ここ。人来ないしさ。こっちの棟の1階使ってるの美術部の人だけだし。あの人たち騒がないから」
「へえ……でも、あたしもなんか好きだなあ。狭いからかな、すごく落ち着く」
なんでかな。学校の中って思えない妙な心地良さがある。変なの、馴染みのないものばかりなのになあ。見知らない、不思議な空間に入り込んだわくわくする気持ちもどこかにあるような。自分とは違うけど、違うから、なんか。
……そうだな。ここって。
そのまんま、真夏くんを表した場所って感じ。
「ん、昴センパイが好きになってくれたならよかった。昴センパイならここ、好きに使っていいよ」
「でも、真夏くんは静かなのがいいんだよね。だったらあたしジャマじゃない?」
「んー、昴センパイはいいよ」
真夏くんがふわりと笑う。あ、また。またその答え。
なんであたしはいいんだろうな。変なの。
真夏くんはなんであたしなんかに構うんだろう。あたしはきみの、迷惑になっていたりしないのかな。
「そうだ、昴センパイに見せたいものがあったんだ。ねえ、ちょっと手伝って」
突然、真夏くんは立ち上がるとカーテンを閉め始めた。雨空で十分に暗かった部屋の中が、遮光カーテンのせいで余計に真っ暗になる。
でもそれだけじゃまだ足りないらしい。
「隙間、埋めて。ガムテープとか、そこら辺の物でカーテン留めちゃってもいいから」
うん、全然わけわかんない。
だけど何やったってわかんないならとりあえず言われるがままやったほうがいいだろう。あたしは暗闇の中気をつけつつ進み、真夏くんの言うとおりに渡されたガムテープでカーテンの下のほうを留めていった。