「急いで来たから望遠鏡、部室に取りに行くの忘れちゃったよ。まあいっか、今日はなしで」

「この部活、部室なんてあったの?」

「あるよ、倉庫みたいなね。気に入ってるけど」


真夏くんはもうひとつ深呼吸をすると、もう息を乱したりしなかった。汗も早々に引いたみたい。やっぱり美少年って、一般人とは体の構造が違うらしい。


「でも昴センパイがそれ見てくれてよかった。もし見てなかったらおれが来なくて帰っちゃうかもしれないと思って急いで来たんだ」


真夏くんが膝を三角に折りながら言う。細い腕で、大事そうに自分の足を抱きしめて。


「んー、そうだね。一応ちゃんと気づいたけど……でもメモ書くくらいならメールしてよ。そっちのが確実だし」

「おれケータイ持ってないよ」

「へえ……えっ!?」


え? なんか今、さらっととんでもないこと聞いた気がする。


「ケ……ケータイ、持ってないの?」

「うん」

「あ、あたしに番号教えたくなくてうそ吐くとかならいいからね。イヤなら無理に訊いたりしないから」

「そういうんじゃないよ。昴センパイに教えたくないこととかないし」

「ガラケーは持ってないけどスマホなら持ってます、とかでもなく?」

「どっちも持ってないよ。スマホってケータイじゃないの?」


ちょ、ちょっと待って。

そんな、嘘でしょ……小学生だって当たり前にケータイ持ってるこの時代に、持ってない高校生がいるなんて!

もしかして家庭の事情とか? でも真夏くんの家が厳しいなんて、そんな噂聞いたことないけど。