なんだろうと思いつつも、シールを剥がしてメモを開く。開いて、ぎょっとした。
『昴センパイへ
今日はちょっとだけ遅れます
真夏』
咄嗟に誰にも見られないようにメモを隠した。体育で掻いたものと違う汗がたらりと顔の横を滑っていく。
て言うか、これ、まさか……真夏くんからの手紙?
……そりゃ、あたしたち今まで連絡なんて取り合ったことなかったけどさ。なんだよこの方法。くそ、迷惑だけどかわいいな。
「……どうかした? 昴」
幸いメモは見られなかったみたいだけど、あたしの不審な行動に絵奈が顔をしかめた。あたしは慌てて両手を振って「なんでもないよ」とそれに答える。あ、まずい、絵奈の鋭いところ発揮されるかも。
「へえ……まさか、ラブレター入ってたとかじゃないよね」
「なっ! ま、まさかそんなわけ! 下駄箱にラブレターとか古いしね! イマドキあるのかな、そんなの」
「あるかもよー、ロマンチストって案外多いし」
悪そうな笑みを浮かべてあたしを覗いてくる絵奈。自然と目を逸らしそうになるのをどうにか堪えて、後ろ手に隠したメモが見つかりませんようにとただ祈るばかり。
じっとあたしを見つめる視線。
だけどふっと、それが緩まる。
「……ま、昴に限ってそんなことあるわけないけどね。ザンネン」
「え、ちょ、何それ」
ぶふっと絵奈は笑って、あたしより先に歩き出す。「早く戻ろ」ってあくび混じりに手招きをして。
……確かに、これはラブレターじゃなくて、業務連絡みたいなものだけど。
ちょっとシャクゼンとしないまま、でももちろん言い返すこともしないまま、あたしは絵奈を追いかけながら、メモを大事にポケットにしまった。