「あれってさ、たぶん男バスのマネージャーじゃん? 可愛いって結構話題んなってる子だよ。なんかお人形さんみたいなさ」

「ああ、うん、確かに。遠目で見ても可愛いもん」

「ねー。でもおそらく自分でそれをわかりきってるところがあたしは好きじゃないけど。こんな堂々と人目につくところで告ってんだもん、断られない自信があるんでしょ」


ぶーっと口を尖らせる絵奈に、何も答えなかったけど、そりゃそうだ、って思ってた。

てか、あんな可愛い子の告白を断る男子なんているのかな。あたしが男だったら絶対に断らない。人に自慢できるし、真夏くんとなんて特に並んでて絵になるし。


……真夏くんはどうやって返事をするんだろう。

もしも彼女ができたなら、その子には部活のことも話すのかな。そしたらふたりだけの内緒じゃなくなっちゃうなあ。

ううん、そもそも、彼女なんてできたなら、それこそ本当にあの屋上でふたりで過ごす時間なんて、きっと、なくなってしまうんだろう。

あたしと真夏くんの小さなつながり。

小さ過ぎて、些細なことで、千切れちゃうようなつながり。




それから、体育の授業をどうにか終えて外の水道で顔だけ洗った。冷たい水に急激に肌が冷やされるのがなんとも言えず心地良くって、大げさだけどあたし今生きてるなって感じがした。

体操服も肌も汗でべたべただった。気持ち悪いし匂いも気になるけど、みんなが文句を言うほどにはあたしはこれが苦にならない。

やっぱりまだ、体を動かすことが好きなんだって、自分のこと、再認識する。


「あー、早くジュース買おー。のどカラッカラ」

「あたしもー」


絵奈と一緒に昇降口に戻って、履いていたスニーカーを勢いよく脱いだ。

腕がちょっとだるいせいで高い場所にある自分の下駄箱が少々恨めしいけれど、どうにか履いていた靴を下の段に入れて、その上のスリッパを手に取る。

そのとき、つと、スリッパの上から何かが滑り落ちてきた。ひらひらと下に落ちるそれを拾い上げてみると、中が見えないように三つ折りにされて、星のシールで留められた、1枚のメモ用紙だった。