「何、もう」
少し呆れつつも絵奈の指の先を目で追いかけた。いろんな花が咲いた花壇の隅のほう、小さな倉庫の横のほうに誰か、ふたり人がいる。男の子と女の子。
あれ……あれって。もしかして。
「宮野真夏だよ! ねえ、あれって告白してんじゃん?」
どうせ聞こえるわけなんてないのに、こそこそ声を潜める絵奈に、つられてあたしも言葉を出さずにこくこく頷いた。確かにあの雰囲気は告白現場に間違いない。
見れば向かいの校舎からも何人も覗いている人がいるし。これはまた、いろんな噂が広まりそうだ。
「よくやるよねえ王子様相手に。でも最近多いよね、夏休み前だからかな」
「夏休みに入ると会えなくなるから?」
「付き合えば夏休みの間独り占めできるじゃん。あんな男の子自分のものにできたらサイコーでしょ」
「独り占め……」
ぽつりと呟いて、絵奈に向けていた視線をもう一度窓の外に移す。
真夏くんは、こっちに半分背中を向けるようにして立っていた。相手の女の子はリボンの色からして1年生みたいだ。おんなじクラスとかかな。小柄で、なんか、ふわふわした感じの子。
「…………」
早く、授業が始まる前に外に出なきゃいけないのに。なんだかその場から動けなくてじっと中庭の奥の光景を見ていた。
女の子は照れ臭そうに笑っている。真夏くんは……今どんな顔、してるんだろう。