宮野真夏はクールな印象があって、いつもどこか大人びているような他とは違う雰囲気を持っていると思っていた。
でも実際の真夏くんは全然違くて。表情は確かにあんまり変わらないけど、ときどき笑うし、案外おしゃべりだし、子どもみたいに大好きなことに一途だし。すごく真っ直ぐだし。
真夏くんを好きな人は多くても、きっとあの真夏くんを知っているのはあたしだけなんだろう。
ただそれだけのことで、だからって何かがあるわけでもないんだけれど。
今もまだ、ふたりで一緒にいることがなんだか不思議な気がして、ときどき、胸がむず痒くなる。
「あいつもさ、言わねえと思うけど、あれで結構楽しんでるから」
高良先生がペシンと、教科書を手のひらに叩きつけながら言った。
「まあ、仲良くしてやってくれよ」
「……あたしなんかが?」
「ああ、おまえがだ」
さっき、丸めた教科書ではたかれたところを、今度は先生の大きな手で撫でられた。
ちょっと嫌がる素振りを見せたら高良先生は笑って「次の授業遅れるなよ」って手を振りながら歩いて行った。
「…………」
……なんで、あたしなんだろうって、今も思う。なんであたしが真夏くんの隣にいるんだろう。
たまたま、って言われれば、それだけなんだろうけれど。