1ページ1ページ、きっと読み古したその本を、真夏くんは大切そうにめくっていく。
まるで宝物を扱うみたいに。ううん、たぶん、真夏くんにとっては本当に宝物のそれ。
「遠くの、大昔の光が、長い時間をつむいでここにいるおれの目まで届いて、真っ暗闇を照らしてくれるんだ。なんかね、それってすごいことみたいな気がして。どきどきするんだ。とてもね。どう言えば伝わるか難しいんだけど」
真夏くんは、そう言って少し困ったような顔をする。けど。
言わなくてもわかるよ。難しく言葉になんてしなくても。
だって、あたしも知ってるんだ。
「まるで、世界が一気に広がるみたいな?」
風が吹いて、目を開ければ。自分の立つ位置から放射状に、景色のすべてが、色を変えていくような。
真夏くんが目を見開いて、それからゆっくりと、こくりと頷く。
「そう……そうだね。おれにとっては、本当にそれ」
嬉しそうな、声に。
自分の両手を見下ろした。小さなそれは、自分の手のひらだけ握りしめたまま、何も掴めてなんていない。
空っぽの手。宝物なんてひとつもない。
地面についた両足は一歩も動くことはなくて、前へ進む道すらも、今はもう。どこにも。
「うらやましいよ、真夏くん」
何がって、またきみは思うかな。
でもね、あたしは本当に、きみのことがうらやましくて。
こんな自分が、大嫌いだ。
「あたしの世界、もう、広がらないの」