「こういうの読んで、夜が来るのを待ってたりもするよ。いろいろ書いてあってお気に入りなんだ、これ」
四隅が随分ぼろぼろになっているそれは、古いっていうよりは、とても読みこまれてそうなっているみたいだった。
開きすぎて背表紙もがたがた。なのに、すごく、大事にされているような感じもする。
「これがセンパイ」
真夏くんがあるページを開いて指差した。濃紺色の夜に、ふわっと光る星のかたまりの写真がある。横には『スバル』の文字。
プレアデス、星団、だっけ。昨日真夏くんが教えてくれたやつ。そう言えば自分の名前なのに、あんまりスバルのこと知らなかったな。
「昴センパイの名前って、このスバルからとったのかな」
「うん、そうらしいよ。深い意味はないけど、綺麗だからって。両親とも星に詳しいわけじゃないんだけど」
「へえ、そっか。うらやましいなあ」
ぽつりと、しみじみと、真夏くんが言う。何がうらやましいのかあたしにはわかんないけど、本当に心底そう思ってるみたいに、真夏くんは、写真の中の星団を人差し指で愛おしそうに撫でた。
その動作になんでかあたしが恥ずかしくなって、心臓のあたりがむずっとこそばゆくなる。
「本当に好きなんだね、星のこと」
真夏くんがこくりと頷く。
「兄貴の影響なんだ。誘われて、一緒に天体観測やって」
「小さい頃から?」
「そう、歳が結構離れてるからね。おれはまだロクに字も覚えてなかったけど、星のことは、たくさん覚えた。星座にまつわる神話とか、綺麗な名前とか」