「この学校の天文学部ってね、おれの兄貴が作ったんだって。もう何年も前だけど。兄貴も、星がすごく好きだから」


つつつと、真夏くんが指でなぞった三脚に、マジックで書かれた丸っぽい文字が見える。

たぶん名前だと思うんだけど、名字の頭文字らしき『M』のあとには、真夏くんの名前じゃなく『SORA』という文字が続いていた。

お兄さんの名前なのかな。古いみたいで、もうすぐ見えなくなりそうなくらい掠れている。


「順平くんもね、兄貴の友達なんだ。一緒に入ってたみたいなんだけど、ほとんど兄貴と、もうひとり女の子がいて、ふたりだけでやってたって聞いた」

「だから、真夏くんと高良先生も仲良しなの?」

「別に仲良しじゃないよ。その縁で顧問はやってもらってるけど」


真夏くんがぺたりと望遠鏡の横に座るから、あたしもその隣に腰を下ろした。真夏くんはちらっとあたしを見て、ズボンのポケットに何度か手を突っ込んでいたけれど、そのうち何も出さないまま大人しく体育座りをしていた。

あたしのためにハンカチを探してくれていたのかなって、気づいたのは、ちょっと経ってから。


「順平くんはさ、顧問のくせに全然部活に出てくれないけど、それって今に始まったことじゃないんだよね。昔っから生徒会の仕事が忙しいからとか言ってロクに出てなかったみたい。今も、陸上部のほうをやらなきゃってさ。兼任するの大変だって言うけどほとんど向こうに付きっきりなんだよ」


ちょっと不満げな顔で真夏くんが言う。

ていうか、高良先生が顧問を兼任してたって初めて知ったよ。陸上部に付きっきりって、そりゃそうだよなあ。