「ねえ昴センパイ」
真夏くんがあたしを呼んだ。ふわふわと飛んでいた意識が一気に真ん中に戻ったみたいに、頭の中の景色が消えて、真夏くんだけが鮮明に見える。
「……何?」
「ちょっと手伝って」
「手伝う? って、何を」
「これの組み立て」
は、と声を漏らすあたしの前で、真夏くんは昨日も持ってきていた大きなカバンを開けていた。
覗いて見たそのカバンの中身は、白い大きな筒と、三脚みたいなの。
真夏くんは三脚をあたしに渡して「立てて、それ」と静かに言う。
「う、うん、わかったけど……それ何?」
「天体望遠鏡」
「……天体望遠鏡」
「うん。星を見るための道具、ってことはさすがに知ってるよね」
ぎこちなく頷くと、真夏くんも頷き返して、それからあたしが組み立てた三脚の上に丁寧に白い筒、もとい天体望遠鏡をセットした。
1メートル近くはありそうな随分立派な望遠鏡は、大きなレンズも付いていて、どこまでだって覗けそうな威厳をその身に漂わせている。
すごいな、こんなの近くで初めて見た。
「……真夏くんって、結局何部なの?」
「天文学部」
「……なるほど」
そんな部活あったんだ。
「この望遠鏡は私物だけどね。部費じゃ買えないんだ。ほとんど出ないし」
「私物って真夏くんの?」
「おれの兄貴の」
真夏くんが短く答えた。
昼の太陽が、もうすぐ、夕日へと変わっていきそうだ。