「ねえセンパイ、ポラリスって知ってる?」


唐突に、真夏くんがそう言った。

ポラリス? 聞いたことはある気がするけど、あたしは首を横に振る。


「知らない。何それ」

「今の北極星だよ。天の北極にいちばん近いところにいる星」

「ホッキョクセイ」


真夏くんの言葉をなぞってみたら、真夏くんがちょっと楽しそうに笑った。


「そう、北極星。ほんとはちょっとだけ動くんだけど、地球からはほとんど動かないように見えてね、だから、星の中心にあるから心星って呼ばれたりもしてて。昔から、北の方角を知るために見られている星なんだ」


真夏くんが遠くのどこかを指差した。そこは色が薄くなってきた広い空があるばかり。

あたしにはやっぱり何も見えない。

でも、真夏くんには、その向こうの小さな光が今も見えているのかもしれない。

遠く、遠くの小さな光。でも確かに消えない光。


見えなくても、いつだってそこにある、暗闇の中、世界を照らす光。


「みんなの目印だったんだ。陸の見えない真夜中に、人は星を読んで自分の位置を知った。ポラリスは、暗闇の中いつでも真っ直ぐに光る、確かな目印であり、大切な道しるべ」


ゆっくり振り向いた瞳に、少しだけ、どきっとした。

あんまりにも真っ直ぐだったから。見られるのが妙に落ち着かないのに、逸らせなくて、それをじっと見つめ返す。

なんだか、風が強くなるのに、その音よりもずっとずっと、あたしの体の中で鳴る音のほうがずっと強く響いていた。


「ねえ、昴センパイ」


まばたきも、できないまま。