きっぱりと、聞く耳持たずで言い放って。真夏くんはあたしがハテナマークを浮かべている間に「じゃあセンパイ、今日の放課後、待ってるね」と、返事を聞かないままにそれだけを言って階段を下りていった。

……なんか、今日、これ多いなあ。ぽかんとしたまま見送るの。


「…………」


ていうか、どうしよう。絶対行かなきゃまずいよね。ああもう、高良先生も、こんな鍵、最初から真夏くんに預けてくれたらいいのにさ。

しかも、案の定。教室に戻ったらみんなに騒がれるし。


「昴! 真夏くんと何話してたの!?」


詰め寄ってくるクラスメイトに、「あー」と濁しながら咄嗟に生徒手帳を見せた。これを拾ってくれたから、届けてもらった、って。うそと一緒に。

こんなの信じてもらえるのかなあと思ったけれど、案外みんなそれで納得してくれたみたいだ。ものすごく羨ましがられはしたけれど、おかげでそれ以上の追及はなかった。

たぶん、元からみんな、あたしが真夏くんと何か関係がある、なんて思ってなかったんだろう。それはそれでちょっとシャクだ。助かるけれど。ちょっとだけ。


席に戻ると、絵奈はもうお弁当を食べ始めていた。好物のからあげをほおばりながら、もごもごと「おかえり」っぽい言葉を発した。


「なんか今日は忙しいね、昴」

「そーだねえ……はあ、なんか疲れた」

「まあまあ、おべんと食べて元気だしなって。生徒手帳、拾ってもらったんだって?」

「うん。顔写真も付いてるから、それであたしだってわかったみたい」


へえ、と絵奈は相槌を打って、またからあげをパクリと食べる。視線はじっとあたしを見たまま。あたしはそれをわかっているから、絵奈のことは見ずに、せっせとお弁当に手をつける。

絵奈はときどきとても鋭い。人のこと、周りのことをしっかり見て把握してる子だから。

あたしは、そんな絵奈のことを尊敬しているけれど、たまに、ちょっと、困ったりもする。