そうだ、と自分に言い聞かせて納得したちょうどそのとき。

ぴたりと、真夏くんと目が合った。咄嗟に、ロコツに目を逸らしたら、目の前の絵奈が「どした?」って首を傾げた。

どうもしてない、どうもしてないよ。何にも関係ないから。

何しに来たのか知らないけれど、彼とあたしは赤の他人。関わりなんて持てるはずないし。あたしは遠目で見守るその他大勢のひとりだし。

そう、だから。どうにか、何事もなく、スルーされますように。


「昴センパイ」


ぴたっと時が止まった気がした。

たぶん気のせいじゃない。だって絵奈も、口を半開きにしたまま、まばたきも忘れてあたしをじっと見ているし。

クラス中の視線が集まっているのがわかった。あれだけギャーギャー騒がしかったのに、今は息ひとつ零さずにいるんだもん。

痛い痛い、視線が。うちのクラスってそんなに、チームワークよかったっけ。


「昴センパイ」


聞こえていないと思ったのか。ダメ押しみたいにもう一度、真夏くんがあたしを呼んだ。

絵奈が、何かを言おうとするその前に、あたしは椅子が倒れる勢いで席を立って、ドアに立つ真夏くんを連れて端の階段へ走った。