「おかえり昴。先生となんのハナシしてたの?」


教室に戻ると、絵奈がすでに机を反転させてお昼モードにしてくれていた。

絵奈の向かいの自分の席に座って、カバンからお弁当を取り出す。お母さん、今日のお弁当何って言ってたっけ。


「ちょっと進路相談だよ」

「へえ、珍しい。もっと成績上げなきゃだめだって言われた?」

「……似たようなことかな」


呟くと、絵奈が他人ごとみたいに笑うから、ちょっとむっとしながらお弁当箱の包みを解いた。

お腹空いたなあとか、他のこととか。いろんな思いを混ぜ込んだため息を吐きながら、お弁当箱のフタに手をかけたそのとき。

途端に、教室がざわめきだす。


「ん、なに。どうしたの」

「ちょ、昴見て! 真夏くんが来てる!」

「え? ……えぇっ!?」


興奮気味の絵奈に言われてドアを見て、ぎょっとした。

う、うそでしょ……いや、本当だ。後ろの出入り口のところに、真夏くんが立っている。

……相変わらずの、梅雨のじめっとした空気なんて寄せ付けないような涼しげな表情で。さわぐ周りの姿なんてひとつも気にせずに、きょろきょろと、教室の中を見回して。


「ねえねえちょっと、2年の教室に何しに来たんだろ。誰か探してるっぽいけどさあ」


まさか、いや、そんなわけない。

あたしを探しに来たとか、それはさすがに自意識過剰だよね。うん、そうだよ。それにもう顔も名前も覚えてないんじゃないのかなあ。彼、人気者だし。関わる人、多そうだし。