「ちげえよ。おれはそんなこと言ってんじゃねえの」


ぽん。頭に先生の手が乗った。ぽんぽんぽん。3回跳ねて、それは離れる。

先生を見上げた。大事なことを言うときほど、くしゃっとした顔で笑うのは、ずっと前からの高良先生の癖。


「戻ってくれたらそりゃ嬉しいが、おまえがそれをまだ望んでねえのは知ってるよ。無茶言うつもりはねえ。ただ今はさ、とりあえず、その鍵預かってろって」


高良先生が指差す、あたしの手の上のひとつの鍵。

キーホルダーの星がころんと転がる。誰にも内緒の、屋上の鍵。


「じゃ、篠崎、よろしくな」


最後に肩に手を置いてから、高良先生はゆるゆると手を振って階段を下りていった。

あたしは、先生が見えなくなっても、しばらくそこに立ったまま。じっと、手の中の鍵を見つめていた。


「イミ、わかんない……」


部活やれって言うのとこの鍵を持ってるのと、なんの繋がりがあるんだろう。

てか、あたしが屋上の鍵なんて持ってていいのかな。勝手に入っちゃったりするよ、あたし。


「…………」


そう言えば、昨日の。真夏、くん。

あの子も、屋上で、一体何をしてたのかな。結局聞きそびれたまんまだ。


まあ、もうあんなふうに話すこと、きっとないけど。