「宮野くんもさ、部活やってないんだよね。この時間にこんなとこいるし。やってたら活動の真っ最中でしょ」


聞いたことがある。宮野真夏は部活をやっていないって。

誰かが「つまんない」って言ってたな。入っていれば自分も同じのに入ったり、応援できたりするのにって。

そのくせ放課後はすぐにいなくなるらしい。ギャルっぽい女の子たちが探しているのも何度か見かけた光景だ。


「もしかしてさ、宮野くんってバイトとかやってるの? だから部活やってないとか」


カフェなんかで働いたら女の子殺到しそうだ。宮野真夏目当てで通ったり。なんか、この人って、年上のお姉さんとかにもよくモテそう。


「まあ、あたしは部活もバイトもやってないけど。えらいね、バイトとかするの」

「真夏」

「え?」

「真夏って呼んで」

「は?」


一瞬、キョトンとした。ハナシの流れ全然噛み合ってなくて、何言ってんのかわかなくって。

何が、って思ってたら、宮野真夏がぱちりとまばたきをした。


「おれ、名前で呼ばれるのが好きだから」

「は、はあ」

「だから、名前で呼んで、昴センパイ」


まあるい瞳がきらきらしてた。

ああ、あたし、真っ直ぐに目を見られることがこんなに恥ずかしくて緊張することだなんて、今、初めて知ったかも。

名前。名前。

きみのことを呼ぶことなんて、この先いつかあるのかな。今はほら、たまたまここで会っただけだし。たぶんあたしがきみと親しくおしゃべりすることなんて、もう二度と、ないだろうし。

だってそんなことしたらいろんな人に目ェ付けられそうだしさ。もう変に騒がれたり、コソコソ何か言われたりするの、疲れるから、そういうの嫌だし。

きみのほうだってきっと、明日からはあたしなんか、目に入らなくなるだろうし。