その道が険しくなければいい。
できるだけ雨も降らずに、穏やかであればいい。
いつだって、光に照らされていればそれでいい。
小さくても、そう、あたしがもう一度、見つけたものみたいな。
そんなものでさゆきの世界が溢れて、どこまでも行けたらいいって、今は本当に、そう願う。
ふと、廊下がざわざわと騒がしいのに気づいた。
特に女の子たちの声がする。その声の先に、昨日まで、ずっと一緒にいた、その姿を見つけた。
目が合った。でもそれはあっという間にふっと逸らされた。
たまたま、みたいな、一瞬以外。あたしたちに関わりはなくて、まるで赤の他人みたいなこの遠い距離。
きみはたくさんの人に囲まれて、騒がれて、あたしはその中の、大勢の一部みたいな。
学校ではあの屋上以外知らないふり。そう決めたのはあたしだ。
騒がれたくなくて、知られたくなくて、内緒にしてって、そう言った。
だけど、ね。
「真夏くん!」
大きな声を出すと廊下にいたみんなが一斉に振り向いた。
騒がしかった場所が途端にしんと静まり返って、視線の全部があたしに向く。
絵奈もさゆきも驚いた顔をしていた。
でもその中で、誰より驚いていたのは、あたしの見る、人混みの向こうの、真夏くんだ。