1年生、初出場のインターハイで5位の結果を残したことは、十分に誇れて自信につながる結果だと思うのに。
「おめでとうさゆき」
「おめでたくないですよ! だって、センパイを越せなかった!」
さゆきはきゅっと唇を噛んだ。
あたしが去年出したインターハイの結果と記録。両方とも越せなくて、さゆきが死ぬほど悔しがってたって、高良先生から聞いてあたしはもう知っていた。
「……悔しいです。たぶん今までで一番。でも、あたし、絶対に追い抜きますから。あたし、誰より速くなって、世界で一番になりますから」
小さく息を吐いた。一度強くまばたきをすると、さゆきは大きな目を見開いて、あたしを見上げた。
「見ていてくださいセンパイ。だってあたし、昴センパイより速く走るのがずっと、ずっと夢なんです」
きっと、もう。さゆきはもうあたしよりずっと速く走ることができるけど。
それでもさゆきがあたしを目指すなら、あたしにできるのは、この何もない小さな背中を、ずっと見せていてあげることだと思う。
「うん、見てるね」
「はい!」
頷いて、また見上げた表情に、真っ直ぐな瞳が綺麗だなあって思った。
きっと、さゆきは、あたしが行きたくても行けなかったところまで飛んでいくんだろう。