「昴センパイ、やっぱり、すごく、速いね」


横で、あたしよりも辛そうにしゃがんでいる真夏くんが息も切れ切れそう言った。


「ううん、速くないよ。すごく遅くなってる。1本走っただけでこんなに疲れるしね。やっぱりなまってるんだね」

「でもおれよりも速かった」

「あは、そうだね。真夏くんには勝てたよ」


はああ、と長く息を吐いて、もう一度大きく吸った。

空を見た。綺麗な星空。花火の煙が晴れたおかげかな、さっきよりもはっきり見える気がする。


……走っていたときに見えた青い景色はもうない。

ここにあるのは真っ黒な空と、そこに光った、小さな粒だけ。


「…………」


小さく息を吐いた。

くちびるを噛んだ。

それでもぽろっと涙が出た。


ほんとはもう、わかってたんだ。


「……あたしね、もうあのときみたいには走れないこと、夢を諦めなきゃいけないこと、ちゃんとわかってたの。けじめついてた。

本当に怖かったのは、苦しかったのは……あのときみたいに世界がきらきら輝くことが、もう二度と、ないんだってことだったの」