「どんっ!」
同時に走り出した。
膝に痛みはない。暗くて見えないゴールまで、ただ両足を蹴り続ける。
息を止めた。まばたきを止めた。鼓動がゆっくり響いて、そのうち思考もなくなっていく。
体が、軽く、風に押される感覚がした。
ああ、これだ。思い出す。まるで背中に羽が生えたみたいに、どこまでも、飛んでいけそうなこの気持ち。
前へ。前へ。もっと、前へ。
その先に見えるのは、鮮やかな青の世界だ。大きく大きく広がった、それの、向こうは。
眩しすぎるほどの、光。
そう、いつか見た、あの、景色──
「っはあ!!」
ザッと靴の下で砂が鳴った。
先にゴールラインを踏んだのはあたしで、ほんのわずか遅れて、真夏くんがラインを超えた。
「はあっ……けほ、はあっ……!」
切れる息は、肺一杯に呼吸をしても足りなかった。胸に当てた手に心臓が直接鼓動を打って、耳元でだって音が聞こえる。
筋肉がびりびりしびれていた。たった100、一度走っただけなのに。
少しする眩暈に、おでこに手を当てて、その下で笑う。