「ここの鍵、順平くんが開けてくれるはずなんだけど、どうやって入ったの?」
あたしが黙ったままでいたら、宮野真夏が視線を変えずにそう言った。
ジュンペイクン? 誰それ。
あ、そう言えば、高良先生の下の名前がそんなのだったような気がする。
「あの……高良先生に頼まれて。先生は部活があるから、代わりに開けておいてって」
答えると、宮野真夏がこっちを見た。でも、「ふうん」とひとつ呟くと、また目線を空の向こうに戻した。
流れるのは、妙な沈黙。
気まずさに変な汗が流れて、手のそれをスカートの裾でこっそり拭った。
ていうか、ほんと、きみこそ一体何してるんだろう。その大きなカバンは何?
それに高良先生と一体どういう関係? ここ、立ち入り禁止なのにどうして入れちゃうの?
「…………」
訊きたいことはいろいろある。
でもとてもじゃないけど訊けるような雰囲気じゃないし。なんか、居づらいし。
彼としてもあたしにいられるとジャマかもしれないし。うん、そうだ、早めに立ち去ろう。それが一番だ。
「じゃ、じゃあ、あたしはこれで」
なのに。