グラウンドは真っ暗だった。いつも暗くなっても煌々とついているライトも、今日はもう役目を終えて休んでしまっている。

当然人なんて他にいない。夏休みのこんな時間、校舎も明かりが点いている窓なんてどこにも見当たらなかった。


ふたりで立った場所はグラウンドの端だった。

目の前にあるのは長い直線。

100メートルの、コースだ。


「ねえ昴センパイ、競争しよ」


わけがわかんなくてぼうっとしていたら、突然真夏くんがそんなことを言うから驚いた。

競争って。こんな状況だもん。当然、100メートルを走る、競争だよね。


「昴センパイってもう、走れるんでしょ?」

「え、う、うん。そうだけど」

「じゃあやろうよ。言っておくけど、本気でだからね」


真夏くんはそう言って、適当にストレッチをし始めた。

本当に適当なそれをあたしは眺めながら、やっぱり、わけがわかんなくってほうけるしかない。

でも、真夏くん、やる気っぽいよね。断る、のは、なんだかアレだな。


「…………」


目の前のコースをゴールまで目で追った。もちろん暗くて見えないけれど、距離なんてもうわかっている。

100。走るのなんて、久しぶりだけど。

久しぶりに、走ってみようか。

あの頃と違っても。