もっとたくさんおしゃべりしたいよ。行けるならいろんなとこにも行きたい。

仲良くしたい。できれば、一緒にいてほしい。


そういう思いがいっぱいあって、でも何ひとつ言葉にはできなくて。

なのに全部ちゃんと伝わったみたいに、きみは「わかった」って答えた。


顔を上げてみた。真夏くんの顔、こんなに夜が深いのに、はっきりと浮かんで見えた。

その、表情。すごく好きだなあって思う。

あたしね、真夏くんが笑ってくれたときの顔、すごくね。


「いいよ、昴センパイ。ずっと一緒にいてあげる」



──ねえ、なんでだろうって思うよ。

なんできみにはわかるんだろうね。あたしが心の奥で、本当に欲しいって思っている言葉。

いつだって真夏くんはそれをくれるんだ。きみがくれた言葉全部。心の深いところまで、もぐって、沁み込んでくみたいに。その言葉、あたしの真ん中らへんから満たしていくの。

あたしが自分でも気づいていないようなこと。きみは全部、気づいていたんだね。


虫の声が聞こえる。

風は、真夏の夜の気配を、街中に運んでいる。


「ねえセンパイ、ちょっと、来て」


ふいに真夏くんがあたしの手を引いた。驚いたあたしが訊き返す間もないまま、真夏くんはそのままあたしがさっきのぼってきた階段を下へおりていく。