一歩二歩と近づいた。真夏くんはもう逃げなかった。

下ろされていた手をぎゅっと握ってみる。真夏くんの手、すごく、温かい。


きゅ、って。恐る恐る握り返してくれた手に、あたしは心底思うんだ。

なんでこんなあったかいもの、今まで気づかずにいたんだろうって。


真夏くん、いつだって、こんなにも真っ直ぐ丁寧に。

あたしに温もりを伝えてくれていたのに。


「昴センパイの好きにして。センパイがいいか嫌かなんだ。おれの気持ちはもうずっと前から、決まったまんまなんだから」


真夏くんが静かな声で言った。

近づきすぎたその顔は見られない。俯いたままで、でも、指先に力だけ込めて。

ああ、もう、これだけで、心の中身全部伝わっちゃえば、それほど楽なことないのにね。

あたしの思い、全部。


「……昴センパイ。この手はさ、おれ、都合のいいように、とらえちゃっていいのかな」

「…………」

「ねえ、昴センパイ」


うん、って、言った声は、すごく小さかったんだけど。

きみにはきちんと届いたみたいだ。だって、こんなにも側にいる。