──ドオォン……


花火が上がった。最後を彩る三尺玉だ。あたりが、夜空と一緒に一瞬色とりどりに染まる。

遠くで響いた歓声が止めば、しんと静かな空気が戻った。花火大会の終わりだ。夏の夜は、また、いつもと同じ景色に戻る。


「……でも、真夏くん今逃げたじゃん。メールだって、一回もくれなかった」

「それは、昴センパイがおれのこと嫌になったと思ったから。昴センパイの嫌なことは、したくないし」

「嫌なんて、あたし言ってない」

「言っておくけど、先におれの前から走って逃げたのは、昴センパイのほうだ」


ずびっと鼻水をすする。真夏くんが目を逸らした。少し拗ねたような顔だった。

……何、それ、あたし逃げた覚えなんかないよ。

思って、すぐに思い出す。あ、そうだ、真夏くんと最後に会った日のあの屋上で……確かにあたしは、走って逃げた。


「う……ごめん。でもあれは、真夏くんのこと、キライになったわけじゃなくて」

「うん、昴センパイが今言ってくれたから、もうわかってる。だから、ね」


また、真夏くんの目がこっちを向いた。その目は、きらきらと、小さな光が瞬いていて、まるで小さな星空みたいだってあたしは思った。

綺麗だなあって。いろいろ考えていたこと全部飛んで、それだけ思う。

空を見すぎてうつったんだ。きっと。小さな粒の、光の色。


「だからね、もしも昴センパイがいいよって言ってくれるなら。おれは、センパイのために、きっとなんだってする」