「真夏くん!」


お願いだから。

話がしたいんだ。ほんの少しだっていいから。


少し離れれば見えなくなってしまう背中に向かって叫びながら追いかけた。

逃げないでって。こっち向いてって。

そしたら、そこで、あまりにもあっさりぴたりと前を行く背中が止まるから、あたしも数歩後ろで追いかける足を止めた。

ふたりの息、ちょっと大きく聞こえる。真夏くんはあたしよりも、息が上がっているみたいだった。


「はあっ……あ、えっと……」

「…………」


振り返った表情は、あんまりよく見えなかった。

真夏くんはじっと黙ったまま。どんな顔で聞いてくれているのか、わからない。


「あの、ね、真夏くん」


ひとつ息をした。少し震えているのがわかって、ぎゅっと両の手のひらを握った。

変な汗、掻いてきた。これって暑いせいじゃないよね。


「…………」


不安、だけど。

きみがどこまで聞いてくれるかわかんないし、きみが今、どんな気持ちでいるかもわかんないけど。


「ごめんね。あたしの顔なんて見たくないかもしれないけど、どうしても、謝りたくて」


どうしても、伝えたいことがあって来た。

やっと気づいた、それは、とても小さくて些細なことではあるんだけれど。

でも、きみには絶対に、きっと、言わなくちゃいけないことで。

あたしがもう、二度と後悔なんてしないように、大切に、しなくちゃいけないことで。


「あんなこと言って本当にごめん。全部あたしの八つ当たりなの。真夏くんが、仲良くしてくれたのも、特別って言ってくれたのも、あたし本当はすごく嬉しかった。なのにね、昔とは違う自分が、恥ずかしくて、いやで」