少し切れた息を整えながら見上げた。真夏くんは、驚いた顔であたしを見ていた。

そろそろ花火はクライマックスだ。音が止まずに鳴っている。


「真夏くん」


呼ぶと、真夏くんは「昴センパイ」と確かめるみたいにあたしの名前を呟いた。

丸く見開いた目が星明りで見える。

階段の終わりで踏んだ草が、くしゅっと柔らかな感触がした。


「……真夏くん」


もう一度、名前を呼んだ。真夏くんはもう応えなくて、ただそこからあたしを見ていた。

一瞬、時間が止まる。

なんだかすごく長い間の気がしたけれど、本当に、目が合っていたのは、瞬きひとつの時間のことで。


真夏くんが肩で息をした。

背中を向けられたのは、突然に。

真夏くんが、走り出す。


「え、ちょ、真夏くん!?」


あたしに背中を向けてあたしのいないほうへ、逃げるみたいによたよたと真夏くんが走っていくから、あたしは慌ててそれを追いかけた。


「待って! 逃げるな! 真夏くんてば!」


ここで逃げられちゃ、ここまで来た意味がない。