「あ、水玉パンツ」


声がして、振り返った。

誰もいなかった……来るはずなかったそこに、縦に長い大きなカバンを背負った男の子が、いつの間にか、立っている。


顔にかかる髪を押さえて、風がすり抜けていくのを待って。

あたしと目が合うと、その人は、たくさんの光を浴びながら眩しそうに目を細めた。


「……あ」


驚いた。知らないうちに人がいたこともだけど。

そこにいた、その人に。

だって、うそでしょ。


──宮野真夏。


「…………」


……なんで、あの“宮野真夏”がこんなところにいるの。ここって生徒が来ちゃいけないところでしょ。いや、あたしだって生徒だけどさ。

でもあたしは高良先生に頼まれて来てるんだし。鍵もちゃんと持ってたし。

だからやっぱり、なんでこの人は、ここにいるの。

しかも、たぶん今、パンツ見られたし?

……ああもうサイアクなんだけど、よりによって水玉なんてコドモっぽいの穿いてるときに……いやいや、オシャレなのならいいってわけじゃないんだけど。


「あのさ」


びくっと肩が揺れた。でも、宮野真夏は気にもかけない様子で、足音を響かせずに歩いて、広い屋上の真ん中あたりで立ち止まる。


「何してんの、ここで」


それはこっちのセリフなんだけど。

でも当然そんなことは言えなくて、あたしは口を半開きにしたまま宮野真夏を見ていた。

背負っていた大きなカバンを丁寧に下ろして、こっちを見ずに、彼はゆるりと空を見上げる。