「ねえ昴、あんたね、ヒトかモノか知らないけど、好きなこと見つけたんでしょ」


花火の音とまわりの人の声。

騒がしくて耳鳴りがしそうなその中で、でも絵奈の声は不思議と掻き消されてしまわない。


「見りゃわかるんだよ、そういう性格なんだもんあんた。すっごく一途でそれだけしか見てなくて。言ったじゃんあたし、そういう昴が好きだって」


絵奈はもう、本当に花火なんて見てなかった。あんなにも綺麗なのに、こんなにも一生懸命、あたしなんかのこと、叱ってくれてんの。

なんでか、知らないけど。一生懸命。


「辞めるべきじゃないよ。言っとくけど適当に無責任に言ってるわけじゃないからね。だってあんときとは違うってわかるもん」


違くないよ、もういいよ。

終わったんだ。夏休み明けたらきっと全部元通りなの。

屋上なんか行かない。もともと行っちゃいけない場所なんだから。

真夏くんは遠目に見るだけ。騒がれたり告白されてたりするの、まわりに合わせて一緒に噂するんだ。


それでいいんだよ。わかってたんだよ。

なのに、あたしね。いつからだろう。


「らしくないよ、自分を抑え込むのさ。あんた、真っ暗っていうけど、それって自分で目ぇ瞑ってるだけなんじゃないの?」


いつから、こんなに、真夏くんといるの楽しくて、離れるの、いやになっちゃったんだろう。


「あんたは一回観念してさ、目ん玉見開いてみるべきだって。そしたらちゃんとさ、もう、見えてるものはあるはずなんだよ」