もう間もなく花火が始まるこの時間、次々見物客が増えて、境内は隙間もないくらいたくさんの人で埋め尽くされていた。

あたしも絵奈も動き回るのをやめて空いていたところに場所を取った。はぐれないように必死で絵奈の横に引っ付きながら、きっと、きみなら嫌な顔をしてあっという間に帰るだろうなって、そんなことを思う。


「昴さ、今日は部活なかったんだ?」


絵奈が、今にも花火が上がりそうな空を、仰いだままでそう言う。


「あ……うん」

「そっか。じゃあちょうど良かったね。部活あったらあんたそっち優先しそうだもんね」


からから笑って、絵奈はまた涼しげに首元のあたりをうちわであおいだ。

空は雲ひとつない。時間が経つごとに色を濃く染めて、消える青と大きな光の代わりに小さな粒をそこに浮かべる。


「ねえ昴」


カラン、コロン。まわりの下駄の音が石畳に響いた。

だけどそのうち少しずつやんで、みんなが自分の立つ位置で、何かを待ちわびはじめる。


「あたしね、昴がまたそれくらい好きなこと見つけられて嬉しいよ。あんたはやっぱり好きなことに一途に、走って行ってるのがよく似合うもん」


空は、夜の色をしている。


「絵奈、あのね、あたし」


──ドオォンッ……


最初の花火が上がった。みんなの視線が一斉に上を向いて、同時に歓声が沸き起こる。

いろんな色に空が照らされる。明るくなって、色付いて、代わりに星は、見えなくなる。

眩しすぎて目を閉じた。開いたときにはもう花火はなかった。細かな火花が星みたいに散らばって、でもそれは、全然きらきらしていない。


「ごめん昴、なんか言った?」

「あ、えっと……ううん、なんでもない」

「うそこけ。なんか言おうとしたでしょ。言いたいことがあるなら言っちゃったほうがいいよ」

「う……えっと、あのね、あたし、部活辞めるかもしれない」

「は?」