名前が知られていた分、ケガで選手生命を絶たれたことはあっという間に広がった。

広がると同時に、みんながあたしに向けていた目も、180度色を変えた。


──あの子がインハイで優勝したっていう
──なのにケガして走れなくなったって
──可哀想に
──オリンピックにも行けたのに
──何やってんだ、もったいない


いろんなところから声がする。それは耳を塞いでも聞こえてくる。

視線がいつだって突き刺さった。目を瞑ったって、それは消えることはなかった。

ぎゅっと目を瞑って耳を塞いだ。消えやしないけど、それくらいしかできなかった。

外の暗闇が中にまで入ってくるみたいだ。ドロドロ、嫌な感情が心の中をぐるぐるしてる。


やめて、お願いだから。

もうやめてよ。あたしが一番わかってる。


ケガしたんだ。走れないんだ。もっと先まで行けたのに。もうどこにも行けなくなった。


誰に言われるまでもなく、そんなことは自分が一番知っていた。だってもう何も見えないんだ。

あんなにもいつだって輝いていた、広い、広い世界。


もうあたしには、何も、見えないんだよ。



栄光を壊した、悲劇のエーススプリンター。

ケガをして間もなく、それがあたしが背負った名前。


今の、あたしが背負う名前は。

もう、何ひとつない。