遮るもののない直線が、目の前に浮かんだ。自分だけの道。真っ直ぐな、100のまぼろし。
そこを行くとき、走っているっていう感覚はない。ただどこまでも体が勝手に前へ行くんだ。
そう、まるで、空へ向かって飛んでいるみたいな。
流れる風の中で、自分の背中に、大きく自由な、羽が生えたみたいに。
あたしはいつだってあの光を追いかけた。
1歩、踏み出すごとに広がる鮮やかな景色、その向こうでいつだって光る心が燃えるような光。
もっと速く、速く、速く、速く。
世界が、どこまでも広がるように。
「…………」
息を吸うと、直線が消えてそこにある景色が戻ってきた。心許ない柵と、背の低い木と、たくさんの人がいる校庭。
100を走りきったランナーがゴールラインへ飛び込んだ。
あたしは、ペンキの剥げかけた柵を、両手でぎゅっと握り締める。
何かが、体の中を突きぬけていく。
せり上がる熱。狭まる視界。
心臓がキュッと縮まる感覚がして、無意識に、唇を噛んだ。
強い風が吹く。