踏み出した足から世界が広がった。

地面は消えて、代わりにそこに空が広がる。果てしない、眩しいほどの、青い、青い空が。


飛んでいたんだ。あたしは確かに。青に包まれて輝いた世界の中を、背中に生やした羽で、真っ直ぐ。

世界はまだどんどん広がる。あたしを中心にして、踏み出す場所からどこまででも。


体が震えた。心が、最高に昂って抑えきれなかった。

心臓が次々に血を送る。そして足は前へと進む。


あたしはこんなにも自由。


そうだ、世界はまだ広がる。あたしの世界、こんなにも輝いてる。

綺麗だ。眩しい。でももっと行きたいよ。この空の中走っていたい。すぐ、そこの、光の場所まで。


ああ、知ってるんだ。届くよ、きっといつか。


だってあたし、こんなにも、走るのが、大好きだから──



ゴールラインを踏んだ瞬間、歓声が大きく耳に届いた。

それがあたしに向けての声だって知ったのは少しあとだ。インターハイの女子100メートル。

その年に優勝したのは、あたしだった。