元々、少人数ながら全国常連の学校だったけれど、あたしはその中でも入学前から期待のルーキーとして扱われた。
ルーキーからエースって、呼ばれ方を変えたのはすぐあと。
専門は100の短距離ランナー。エーススプリンター。
それが、あたしが背負った名前だった。
期待はちょっと重いけど、それを裏切りたくはないし裏切る気もない。
何より自分の夢のために。それがあたしが走るための何よりの糧。
どんどん広がる世界にときめきが止まらないんだ。自分が速くなるのが身に染みてわかる。
どこまで行けるんだろうってときどき少し怖くなった。でも足は止めない。
どこまでだって行こう。きっとあたしは行けるから。
やめようって思ったことは一度もなかった。そんな考え浮かばないくらい、あたしにはこれだけがすべてだった。
あたしにとって走るのは息をするのと同じこと。どうしたってやめられないんだ。だから前へ進むしかない。
あの青い景色の向こうまで。あの光が、浮かぶ場所まで──
高1の夏。近い空が、息を止めたくなるくらい濃い青色した晴れた真夏の日。
その日はいつも以上に蒸し暑かった。空と同じに太陽も近くて、立っているだけでどんどん汗が流れ出た。
見上げると、眩しくて、つい目を細めた。だけど瞼を閉じても、その裏側に残るくらいの、心を焼く、青と光。
それは、あたしにとって初めてのインターハイだった。
高校生のスポーツの祭典。この年代の誰もが目指すスポーツの最高峰の大会だ。
それだけあってまわりを見れば、地区予選を勝ち抜いてきた強豪ばかりが集まっていた。他の大会で何度も見た顔も多い。全国で星の数ほどいるランナーの、トップクラスが今ここに集っている。