陸上を始めてから、いくつもの有名な大会で入賞した。同学年の陸上選手にはわりと名前を知られていたと思う。
中学2年のときに全国の大会で優勝してからは、特に知らない人に声をかけられることが多くなった。
ライバル選手だけじゃなく、大人の人から特に。その多くが高校の陸上関係の人で、まだ進路を決めていなかったあたしを誘うための内容がほとんどだった。
そしてその中のひとりが、高良先生。
「きみが篠崎か。スプリントの天才」
初対面の言葉はこんなのだったと思う。天才、って言われるのはあんまりしっくりきてなかったんだけど、高良先生はそれをあんまりにも何気なく言うもんだから「はい、そうです」ってさらっと答えちゃって、笑われたのを今でも覚えている。
若いし、結構ぐいぐい来るから、最初はちょっと高良先生のことが怖かった。
でも、あたしの中学と高良先生の高校が近所ってこともあってときどき教えに来てくれていた中で、そういう思いはあっという間になくなった。
高校の誘いはいくつもあった。
その中から今の高校を選んだのは、地元を離れたくなかったのと、高良先生にもっと教えてもらいたいと思ったことが理由だ。
ゆるそうで、実際ゆるくて、どっちかっていうと見守るスタイルで。だけど気になるところは的確にアドバイスをくれて、いつだってあたしの行く道を一緒になって目指してくれる。
高良先生のそういうところがとても落ち着けた。速くなるためならなんだってするけど、できるなら同じ目線でいてくれる人の側でがんばりたい。
だからあたしはこの学校に入った。
大きな夢を大事に持ったまま。あの光をずっと、目指し続けたまま。