100メートルという短い距離。その直線を全身を使ってただ走る。
他には何も考えないで、ひたすら足を前に出して進む。
まるで自分が自分じゃないみたいなんだ。でもそれが、その瞬間の自分こそが、きっと本当のあたしで。
もっと前に行きたいと思う。もっと速く進みたいと思う。だから足を前に出す。地面を誰より強く蹴って。
心が高揚する。心臓が熱くなる。肺ははち切れそうになって、全身は風の中に溶ける。
背中に生えた羽は、きっとまぼろしじゃない。
ピストルが鳴ってからゴールラインに飛び込むまで、他の誰もいない直線を駆け抜けるその瞬間、あたしの世界はガラッと色を変えた。
踏み出した場所から波紋のように広がっていく世界。
眩しくて、声も出なくて。鮮やかになる、すべてが。
羽を広げてどこまでも高く、飛んでいけるような気がする。
あの青い世界まで。広い、広いあの場所まで。
きらきらと、眩しい何かが光っているあそこまで。
だからもっともっと速く。前へ。誰よりも。
きっと、あたし──