屋上を出た。真夏くんは追いかけては来なかった。
梅雨のときより日焼けした両腕でぽろぽろ落ちる涙を拭った。1階までの階段を、一度も止まらず駆け下りる。
もう、治っているはずの左膝がズキズキと痛んだ。でもそれ以上に、痛いところがある。
……なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。なんて、後悔したって遅いけど。
でも、すごく、どうしてか、悲しかったんだ。
真夏くんが見つけてくれたのが、特別、みたいに、扱ってくれたのが、今のあたしじゃなかったこと。
真夏くんが特別に思ってたのは昔のあたしだ。きらきらしてて、そう、あのときのあたしは確かに、今のきみととても似てた。
世界は広くて、大きな光を追いかけて前に走る。そんな、あたしのことを、きみはずっと追いかけてくれていたんでしょう。
……だったら、今のあたしはなんなの? 何ひとつ、できやしないのに。
きみがあの頃のあたしを追いかけてくれても、もうそこには誰もいない。
あたしは全然違う場所で、やっぱり動けず、うずくまってる。
光なんてやっぱりどこにもないんだ。あれはたったひとつで、消えたら終わりで、もう見えない。
あたしの世界はもう広がらないの。何も見えないの。どこにも、あたし──
息を止めると、さっきの真夏くんの顔が浮かんだ。
あたしはぎゅっと唇を噛んで、立ち止まらずに、苦しくなっても走った。
そのあと、一度だけ真夏くんからメールが来た。
『ごめんなさい』
それだけ書いてあって、あたしは返事をしなかったけど、お揃いのスマホを握りしめて、なんでかたくさん、声を上げて泣いた。