『これ、開けといてくんね?』
開けは、したけど。
屋上の鍵なんて、開けてどうするんだろうなあ。約束があるって言ってたし、他の先生とでも、後で何かするのかな。
柵の補修とか? ありえそうだけど。まあいいや、考えたってどうせわかんないし。高良先生も、部活が終わるまで当分ここにはこないんだし。
なくさないように、鍵は胸のポケットに大事にしまった。
柵の手前へ近づく。この場所からは、校庭がよく見える。
右端には、テニスコートが並んでいる。もう部活動は始まっているから、あのどこかに絵奈がいるはずだ。
グラウンドではいくかの部活がエリアを分けて活動していた。奥では野球部、隣にソフト部。手前の方ではサッカー部とハンド部。
それから。
───パァンッ!!
弾けるような音が鳴り響いた。
それを合図に、地面に引かれた直線の間を、真っ直ぐに駆け抜けていく姿が、グラウンドの隅でひとつ。
100m。短く長いその距離を、他の誰よりも速く、速く。
『On your marks──』
聞こえるわけがないのに、それが耳元で聞こえた気がした。呼吸を止める。