そんな、思いもしないよ。
まさか真夏くんが、あたしが彼を知るよりも先にあたしのことを知ってたなんて。
屋上で会ったのが最初だと思ってた。それまではあたしが勝手に一方的に真夏くんのことを知ってただけで。
でも、逆だったの? きみがあたしのことを知ってたの?
あんなにも前から。1年も前から。
まだあたしが、夢を追いかけて、眩しい景色の中を走り続けていたときから。
きみはあたしを、知っていたの。
「おまえは真夏の憧れで、特別なんだよ。篠崎」
心臓、なんか、変な音で鳴ってる。
……知らなかったよ、ほんと、何も。
そっか……そうなんだ。やだな、なんで言ってくれなかったんだろ。内緒にするようなことでもないじゃん。
あのときの、見てたって。知ってたって。一番最初に、言ってくれれば。
「…………」
でも、そう言えば。
いろいろ、何のことだろうって思うこと、なのに妙に突き刺さること、真夏くんには言われてきたっけ。いろんな言葉を真夏くんはあたしにくれた。彼にとっては見当違いで、きっと何でもない言葉なのに。
なんなんだろうコレって思ってた。なんにも知らないくせにって。
でも全部知ってたんだ。
あのときのこと。そのあとのこと。今のこと。真夏くんは全部。だから──
「どうした? 大丈夫か篠崎、なんか、顔色悪いな」
「いえ……大丈夫、です」
うん、なんてことはない。そっか、そうなんだね。
真夏くんはあのときのあたしに憧れてくれたんだ。見てたんだね、知ってたんだね。
あのときの、前を真っ直ぐ向いて立って、ひたすら走って、輝いてきらきらしてたあたしを。
自分のことが大好きだったあたしを。
今のあたしとは全然違う。
あのときの、あたしを。