──パアンッ
ピストルの音に、あたしも先生も同時に振り向いた。
グラウンドの端を見る。作られた100メートルの直線の上を、さゆきが走り出したところだった。
あ、速い。スタートからそうわかる。
さゆき、なんだか見るたびに、速くなっていってる気がする。
「高良先生」
「ん?」
「さゆき、調子はどうですか?」
「おう、かなりいいぜ。もうインハイ間近だからな、おまえに似て肝が据わってるっていうか、楽しみで仕方ねえって感じで、まだどんどんタイム伸ばしてる。これからもっと速くなるよ、あいつ」
「そうですか、うん」
さゆきがゴールした。タイムを聞いたらしいその表情を見て、やっぱりいい記録が出たんだとわかる。
インターハイ、上位狙えるくらいの記録を出しているって前に言っていたけれど、たぶん本当にいい場所に行くだろう。今の調子が本番でも出せれば、上位入賞どころか……1年生でも、優勝を狙える。
「…………」
さゆきは、他の部員と手を叩き合って喜んでいた。その姿が、なんとなく1年前のあたしと、重なって見えた。
でも……不思議だな。なんか今あたし、大丈夫だ。
ついこの間まで、あれだけ苦しくなってたのに、今は、なんか。
素直にさゆきの姿、見てられる。
「ねえ、高良先生」
「なんだ」
「あたし、さゆきのこと本当に応援してます。あたしもさゆきはもっと速くなると思うし、だからこそあたしが行けなかったところまで、さゆきには行って欲しい」
こっちに気づいたさゆきが、大きく手を振っていた。
さゆきほどにじゃないけれど、あたしもよく見えるように振り返した。
カラッと晴れた空の下で、その姿は、とても輝いて見える。