「へえ、そっかあ。でもさ、昴、だから最近変だったんだ」
「変?」
絵奈が言うから、なんのことかと首を傾げた。
「そうだよ。だってあんた最近、なんか、空ばっか見てるから」
「あー……」
なるほど、確かに、そうかも。そう言えば今も見ちゃってた気がするし。
なんか、真夏くんといると空を見上げてばかりいるからあたしも癖になっちゃったらしい。
真夏くんみたいに空が好きで、わくわくするような気持ちで見ているわけじゃないけれど。
どっちかって言えばあたしたぶん、空を見たいわけじゃなく、空を見て、真夏くんを思い出してる。
「まあ、あたしはいいと思うよ。なんか思い出すもん、走ってた頃の昴」
絵奈が頬杖を突いてあたしを見上げた。
「いつもそのことしか見てなくてさ、人の話もロクに聞かないで。目をきらきらさせて自分の好きなほうだけ見てんの。こう言うと、ロクなやつじゃないっぽいけど、あたし、そんな昴が好きだったよ」
笑った表情に、どう返せばいいのかわかんなくて口をつぐんでいれば、絵奈はなおさらからからと笑った。
無意識に左膝を触っていたことに気づいた。もうそこに、痛みはないけれど。
「昔ほどじゃないけど、今のあんたも、見てて結構楽しい」
「……なにそれ」
「褒め言葉だよ、もちろんね」
絵奈が笑う。あたしは苦笑いだけど、どうしてもつられて笑っちゃって、近くにいたスズメが驚いて、どこかにぴゅんと飛んでいった。
……ねえ、思うよ。あたし本当に何か変わったかな。
ううん、たぶん何も変わってない。だってあの日から。ケガをして走れなくなったあの日から、今もまだ世界は真っ暗闇のままなんだ。
でもね、もしもって、考える。
もしもまた、あの日見ていたのと同じような景色が見られるのなら。
『世界はこんなにも、広くて綺麗なのに』
もしもまた、世界が、輝くことが、あるのなら。